《欧米市場に挑戦を》 メーカーズシャツ鎌倉会長

国内でのものづくりが進まないのは日本のアパレルメーカーが海外市場に進出する際、欧米の先進国ではなく、新興国を選択していることと無関係ではない。
当社は昨年秋冬、ニューヨークに海外初出店をした。米国人は大雑把な印象があるが、日本人が想像する以上に品質に厳しく、あなどれない。そういった中で、当社のメード・イン・ジャパンのシャツを高く評価してもらえた。
他のアパレルメーカーの経営者も欧米市場に挑戦し、肌で感じてほしい。

~中国市場でいいのか~

日本のアパレルメーカーの中国進出をジャーナリズムも評価する向きもあるが、洋服文化の後進国で成功したとしても意味がないのではないか。
欧米のアパレルも中国などアジアへの参入を強めており、日本が競争に負け、凌駕(りょうが)される可能性もある。
ブランドエクイティーも落ちかねない。

大半のアパレルはものづくりを商社に丸投げし、コスト増を回避してきた。
SPA(製造小売業)による原価率20%以下で粗利益率を6割残すという経営は、企業としては正しいかもしれないが、顧客にとって正しいのか。店頭でプロパー消化率50%を切る状況が健全をいえるのか。

セールの問題もしかり、アパレルメーカーの自滅の構造は「VAN」倒産のころから変わっていない。
日本市場が飽和状態だから海外進出するというが、まだまだやれることはあるはず。
ものづくりから真剣に取り組んでいるところが少なすぎる。
いくつかのアパレルメーカーでは、さらに国内工場を閉鎖するところもある。いくらメード・イン・ジャパンの良さを訴えてもむなしくなることがある。それこそ作り手と売り手がウイン・ウインの関係になるのは難しいだろう。
こういう状況でファッションの世界はハッピーなのだろうか。

~信頼関係が不可欠~

いいものを作るには作り手と売り手の気脈が通じてなければならない。「この人のためならここまでしよう」という信頼関係が不可欠だ。現在は単なる取引相手というだけで、効率を重視するあまり、作り手の意向も変調してしまう。
アパレルメーカーのトップが生産現場に行かないのも問題だ。作る機能に関心がない人が多すぎる。
このままでは作って売るではなく仕入れて売る企業になってしまう。
その際、安くて、納期どおりで、クレームのない程度の品質という低い基準になりかねない。

当社のニューヨーク店オープン時には日本のシャツ縫製工場やボタンや芯地など副資材メーカーなどパートナーである作り手のみなさん(25人)にも米国まで来てもらった。店舗のウインドーに飾ったシャツを見た米国人からは、「細かいステッチがきれい」「昔のブルックスブラザーズのようだ」などと日本の縫製技術の高さが注目された。
作り手のみなさんも自分たちが作った商品がトラッドの本場である米国・ニューヨークの消費者に評価されるのを目の当たりにし、理屈でなく「未来への光」を実感してもらえたと思う。

2013年1月24日 繊研新聞(693号)より