今年も6月から、省エネルギー対策として、ノーネクタイでも公式の場で礼を失しない装いとして認めましょう。という社会的な運動が始まった。服飾業界では、ネクタイ業界が打撃を受け、一方、シャツ業界では夏の正装にシャツ単体が主役に踊り出る事になった。
半袖のシャツ一枚で、公式の場でOKとなったのだから、働く男性は大喜びである。
しかし、今まで着用していた、個性の無い白の普通のシャツでは、どうにも収まりが悪い。
家族会議でも、妻や娘から「お父さん、どうるすの?」という事になった。
しかし、妻や娘もクールビズとは何であるか、シャツ一枚で「サマ」に成る装いが可能なのか!?
お父さんに聞かれても、今回だけは責任をもって「こうしなさい」と言えなかった。
かくして、お父さんは、生まれて初めて自分で、自分の服を買う破目になった。
ノーネクタイとなると、今までのシャツでは収まりが悪い。
売り場の皆様も、今まであまり売った事のない衿の先にボタンがついた”ボタンダウンシャツ”が一番収まりもよく、何とか格好がつく、と思ったに相違ない。
ボタンダウン愛好者は、シャツ販売量の5%も無いそんなシャツを着ていたのだから、マイナーな存在であったのだが、シャツ業界では、ここぞとばかりに”ボタンダウンシャツ”を大量増産する事になった。
そして、一年目、二年目のクールビズは夏のシャツ業界に幸運をもたらしたのでした。
次に起きた事は、平凡な無地の”ボタンダウンシャツ”では他との差別化が出来ない為、バイヤー様は、日増しに変化のある物を要求する様になったのです。
さて、この”ボタンダウンシャツ”は、特殊なシャツで、アメリカで発明され、激しい柄物でなければ、公式にも遊ぶ時にも使える、いわゆる水陸両用の不思議なシャツであります。アメリカの歴代の大統領の中でもケネディー大統領のボタンダウン姿は、長く人々の記憶に残るものでした。
VANは、まさに”ボタンダウンシャツ”を日本に広めた会社でありました。
かくゆう私も、VANが倒産して15年。ボタンダウン愛好者から「あのVANが作り出した衿先のカーブの復元を!」と望む声に推され、メーカーズシャツ鎌倉の設立を思い立った訳ですから・・・。
“ボタンダウンシャツ”とは、斯く斯くたる物であるというボタンダウン愛好者のうんちくがある事はいうまでもない。一見、カジュアルにも着こなせるボタンダウンシャツこそ、公式の場では正しく着こなされなくてはなりません。日本を一歩外に出れば、礼節ある振る舞いや、正しい服装に気を配らねばなりません。
世界の人々は、その様に日本人を観ているのですから。
人は見た目、第一印象で判断されます。その服装と所作が一瞬の勝負を決めてしまいます。
日本人には、洋服の歴史が無い事は何度も述べてきたつもりですが、
私達業界の人間は、カジュアルなジャンルの服飾設計は、ルールが無い為、誰からも咎められる事はありませんが、ビジネス等の公の場に於ける洋服は、西欧のルーツを踏み外した設計をしてはなりません。
何を作っても、それが売れるものであれば良いという切羽詰まった会社の事情や、バイヤー様からの要求があるかもしれない。これだけ物が売れないのだから、売れるものであれば何でも良いという、そんなクールビズシャツがマーケットに数多く出現する。ボタンダウンシャツだから、カジュアルユースだから、ルールに縛られないデザインシャツを販売する。
一理はあるかもしれない。
しかしながら、一般のオジ様、オニイ様、あるいは、その恋人達も、そんな洋服のルールを知るべくもないし、専門業者が販売しているのだから「正しいもの」と信じてしまう。
日本国内でそんな格好で闊歩しても、恐らく誰も咎め立てはしないと思うけれど、一歩、国の外に出た時、ルール外の服装が遊びの場でない、ビジネスの場であったりすると、恐らく、大顰蹙を買ってしまう事に成ります。誰も注意をしてくれないでしょう。そうして、礼節の一歩を踏み外す事になるのです。
ビジネスをする側も、購入してくださるお客様が、提供する服装を他国の人々から、高く評価される商品を提供し、着用した方々から、感謝される様なそんな心構えで商いの道を歩きたいものだと痛感する。
あまりにも、ルール外のシャツの氾濫に心を痛めて…
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