ウィンブルドンには事前に取材を申し込み、OKをもらっていた。シーズンオフでもあり、どこを撮ってもいいといわれ、人けのまったくない建物内へ足を踏み入れた。

日本のクラブハウスは知らないが、ウィンブルドンはどこをのぞいても歴史の重みをズシリと感じた。よく手入れのゆきとどいたサロン、古いが機能的なロッカールームなど、見るもの見るもの欲しくなる良質な英国アンティークばかり。

奥から「ポーン、ポーン」と、ボールを打つ音が響いてくる。音を頼りに暗い廊下を進む。明るい屋内コートに出た。

上品な中年婦人のお相手を男性コーチが務めているところだった。1打ごとに「お上手」と声をかけながら、おだやかにボールを返しているコーチは中年で、白の長袖シャツに白の長ズボンとクラシックないでたち。婦人も真白なテニスウエア。さすがウィンブルドン、「ホワイト・スポーツ」の語源を教えられた素敵なシーンだった。

(つづく)

Wimbledon, 1960-75
出典:Wikimedia