ディアストーカーと共に、シャーロック・ホームズのトレードマーク化されているインバネスだが、この外套も帽子以上に珍しい。
ホームズが着ているインバネスは、オーバーコートの上に短いマントが重なっていると思えばいい。極冬の地で生まれた19世紀の防寒コート。
インバネスとは、スコットランド北西部高地インバネス州の首都名で、ネス河畔の海港。ネス河はあの「ネッシー」が住むというネス湖から流れる。40年以上も前に訪ねたことがあるが、ネッシーにもインバネスにも出合えなかった。
ところで、コートのインバネスは、袖のあるモデルと、袖なしとがある。明治時代に袖なしは日本に伝わり、当時、男性の主流だった和服用コートとして大流行した。「二重回し」「とんび」と呼ばれた。とんびとは、鳥のトビが翼を広げた形に後ろ姿が似ているところから付いた愛称。黒ラシャ製が主で、ツイードなんてしゃれたものはない。
(おわり)