戦後間もないころ、銀座でキャメルのオーバー・コートを着た外国人を見た。オーバー(外套)といえば黒か紺しか知らなかったので、なんてカッコいいコートなんだと、しばし見とれた。大人になったらキャメルのコートを着るのだと、少年くろすとしゆきは心に誓ったのだった。
コートのデザインまでは覚えていないが、ともかく色にしびれた。下着のラクダ色とはまるで違っておしゃれだった。
キャメルのコートを初めて身に付けたのは30才過ぎてからだった。VANの秋冬物コレクションに、キャメルの「ポロ・コート」を加えたのだ。それまでも数々のアイビー・アイテムを商品化したが、ポロ・コ
ートには手が出なかった、というより手が出せなかった。大人の、それも米国東部のお金持ちのジェントルマンの着るものとのイメージが強くて、尻ごみしていたのだった。
ダブルブレスト、6つボタン、ハーフバックベルト付きのポロ・コートは毅然として見えた。
(つづく)