2012年、私たちが進出したNew Yorkでは、ボタンダウン(以下B.D.)本家のシャツは形態安定となり、襟の芯地には接着芯地が使われていました。襟は固く、自然の風合いが損なわれ、襟のロールは美しいカーブを失っており、ニューヨーカー達の不満と諦めは極限に達していました。
それ故に、鎌倉シャツの柔らかい綿芯と、そのロールが高い評価を受けたのです。
この時からB.D.通の彼らの間で「B.D.論争」が繰り返されました。そんなある日、そのサイト上にこの様なコメントを見つけたのです。
「Mercer & Sonsのシャツは、今も芯地なしで初期のB.D.の原点を守っている。値段は高いがその価値はある。鎌倉シャツには優秀な技術者や熟練した作業員がいるはずだ。もし彼らがMercer & Sonsに習い現代的な体にフィットするシルエットで襟芯の無いB.D.を開発してくれれば、それは最高の物になるであろう。鎌倉シャツの価格設定は何時も顧客の味方である。そうなれば、鎌倉に勝るシャツは存在する事が出来ないだろう…」
老舗アメリカンブランドが発明したB.D.シャツは、クラシックアイテムの象徴として長い間生き続けてきた。それはファッションにおけるクラシックであるが、音楽と同じように、楽譜は同じでも演奏のされ方は時代の感覚に沿ったものであった。
このように考えると、私たちの再現するB.D.は、アメリカ流の縦の線を持つI型(VAN 時代の胴にくびれの無いストレートシルエットのジャケット)に合わせつつ、襟は縦のラインを持ちながらも襟のロールが美しく出なければならない。しかし、初期のB.D.シャツのシルエットはかなり大ざっぱで、体に沿う曲線を実現出来ていない。これはむしろ現代の技術で改良すべきだと考え、マンハッタンモデルのボディを搭載した。
蘇る、襟芯なしのクラシックなB.D.シャツ「SPORT~スポート」は、ニューヨーカーの期待にも応える“新しく古い”名品となるであろう。
鎌倉シャツ会長「貞末良雄のファッションコラム」アーカイブはこちら
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