ドレスシャツ、Button Down以外を胸ポケットの無いものに変更した。
ドレスシャツのポケットを外す決定には賛否両論で、未だに(1年経過)反対の立場の方々から厳しい批判を戴いている。

その論旨は、
1.『ここは日本である。日本人に売る以上、日本の気候風土、習慣に倣い日本人仕様のシャツを販売すべきではないか。あなたも日本人ではないか。』
2.『私は米国に何年も滞在したがシャツにポケットなしなど聞いた事がない。何かの思い違いではないか。』
3.『夏場はクールビズが浸透していて、上衣、ネクタイなしが一般化している。上衣が無いので、シャツのポケットは必要不可欠である。』
4.『単なるコストダウンではないか。』

以上の論旨は、ごもっともと考えている。

しかし一方で、
『正統なドレスシャツ(ポケットなし)を着たかったが世界の一流ブランドやラルフローレンのドレスシャツしか捜せなく、いくらなんでもこれらのシャツを何枚も購入することは出来ない。
10年以上も前には確かスリムFitシャツにはポケットがなかったが、オンラインショップが始まって、やがてポケットありになり、鎌倉シャツには失望していた。
鎌倉シャツさん、よくやってくれた。』

こんな賛成意見も在る。

NEW YORKに出店してオープン初日早々に、ポケット付きのドレスシャツについて、「何故ポケットが必要なのか」お客様に問いただされた。

彼の論旨は、
1.『シャツは肌着に近いもので物を入れる機能は必要ない。』
物を入れたければ、JACKETにもPANTSにもポケットは沢山ある。

2.『シャツはスタイリッシュに着たい。』
シャツとネクタイはビジネスシーンにとってとても重要で、敢えて言えば最も男性がSEXYであるのは、上衣を脱いでシャツ姿になった時である。
故に彼はジャストサイズのシャツを探している。
ジャストサイズのドレスシャツを着用して、ポケットに物を入れれば、そのシルエットは崩れてしまう。デリケートで高級なシャツ地はダメージを受けてしまう。

(余談になるが…
アメリカ人は太った人が多く、又すぐに太るという恐怖心から少々大きめのシャツを購入する傾向がある。
メーカーが“スリムFit”と言っても、表現はそうでも必ずしもスリムでない“スリムFit”シャツが溢れている。
日本人はそんなに太るという恐怖心が無いだろうから、日本人の作る“スリムFit”は本当に期待通りのサイズに違いないと考え、買いに来たという方が大勢いたのです。)

アメリカでは正に、ポケット付きのドレスシャツは1枚も売れなかった。

イギリスで発明され、進化したドレスシャツであるが、正統な源流は、ポケットなしだ。
ポケット付きはジャパニーズアレンジであって、これを世界に拡大することは不可能である。
私達の会社の社是は日本人の男性をおしゃれにする事であり、世界で活躍するビジネスマンを応援すると設立以来、この目的に邁進してきた。
もし、NEWYORKでお客様の忠言がなければ、応援していたつもりの人々を世界の檜舞台で恥をかかせてしまったのである。

考えてみれば衣服が買える生活でなかった第二次世界大戦後は、セーターは手編みで作り、上衣は軍服を改造し、有力者は街のオーダー屋さんでスーツ、ヂャケットを作らせていた。
この頃は、衣料は暑さ・寒さをしのぐ必要衣料であった。
従って衣服には、機能が具わっていることが必須で、購入の動機はその機能の良し悪しが決め手であった。すなわち、人々は衣服の機能を購入したのであった。

やがて人々の暮らしが向上し、衣食が足りた婦人にはFASHION誌が、男にも、男子専科などのおしゃれ誌が登場した。
1950年後半に石津謙介の設立した服飾メーカーVAN JACKETが誕生する。
人々は機能消費から目覚め、格好いいもの、すなわち“情緒豊かなもの”を求めるようになった。
(機能消費から情緒消費への転換である。)
機能ではなく、“情緒”を刺激したのがVANであった。
若者達も大人も、服は格好良いもの、夢を叶えてくれるものとして、一世を風靡したのである。
私はVANに在籍し、その伝統を受け継ぐ者として、服は“格好良いもの” “情緒を豊かにしてくれる” そんな使命を引き継ぎたいと考えている。

当然、日本には機能満載のポケット付きドレスシャツやクールビス対応の派手なシャツが世に溢れている。
それが果して格好良いか否かではないだろうか。
そのシャツ(鎌倉シャツを含め)が好きか嫌いか、それこそ情緒の問題で、それを選ぶ本人の自由である。そこには誰も異論を唱えることは出来ない。

格好良いか否かは、他人が判断する。
自分がそう思っても、他人が評価しなければ、それは一人よがりという事になる。
自分の評価は他人がするのである。
異論反論、有難く受け留めるが私たちの会社の使命としてやっていく決定を覆すことは考えていないのである。

格好よいビジネスマンが世界に飛躍する姿を夢みて

貞末 良雄
2014.8.5