――お2人の出会いのきっかけを教えて下さい。
渡邉 貞末会長との出会いは17〜18年前になります。当時、私は三菱地所で2代目「丸の内ビルディング」の商業開発に携わっておりまして、鎌倉シャツさんの丸ビルへのご出店の調整をさせていただいたことがきっかけです。それ以来、プライベートの海外ツアー(全て珍道中!?)や定例勉強会(呑み会)も含め、お陰様で公私ともにお付き合いをさせていただいており、大変感謝しております。もともとVANヂャケットご出身でいろいろなご経験をされてますから、貞末会長の裏表を知るうちに、何度も惚れ直し(笑)、今日に至っています。
貞末 表裏です(笑)。 弊社にとって、丸ビルへの出店は、大きな挑戦でした。その前の三菱地所さんの横浜ランドマークタワーへの出店を含めて、この2つの商業施設への出店は弊社の成長の原点になりました。
渡邉 鎌倉シャツさんとのご縁をいただいてから、ビジネスシャツは、18年間ずっとオール鎌倉シャツ、オンリー鎌倉シャツです。鎌倉シャツを纏っているという感覚が仕事をしているうえで不思議に心地よい満足感や充実感に繋がるんですよね。魔法のシャツです(笑)。
貞末 ありがとうございます。
――丸ノ内ホテルの社長に着任されて、ユニフォームを一新しようと思ったのはなぜですか。
渡邉 丸ノ内ホテルを紐解きますと、大正13年まで遡ります。2004年の再開発で、現在の2代目のホテルに仕切り直されました。私がこのホテルに着任したのが、ちょうど再開発竣工から満12年のときで昨年の6月末です。干支で言えば一周し、いろんな意味でリセットの時期を迎えていました。社員みなとも話し合いましたが、ホテルスタッフにとってユニフォームというのは、非常にウエイトが高い位置づけのアイテムで、これをどう一新するかというのは、着任早々からのテーマでもありました。貞末会長にそれらしき話をしたときに、「渡邉さん!ユニフォームユニフォームしているホテルの時代じゃないよ。ホテルのスタッフのユニフォームの概念を変えていったほうがいい」と言われインスパイアされました。
貞末 渡邉さんが社長になられて、お昼ご飯を御馳走になったとき、ホテルの皆様がご挨拶にお見えになった。入館してから多くのスタッフの方々をお見かけしましたが渡邉さんが一番おしゃれなんですね。これって、ちょっとまずいんじゃないかな、と思いましたよ。そして食事の後、テラスに移り、渡邉さんからユニフォームの設計をしてもらえないかと言われました。ホテルのユニフォームは、弊社はやったことがありません。しかし、私たちの今まで蓄積したノウハウを随所に発揮できれば、割合いいものができる可能性があると感じました。
非常に限られた予算で最初から縛りがありましたが、むしろ縛りがあったほうが変に華美にならないですむし、ユニフォームは耐久性や洗濯、色落ちの問題を考慮したうえで、個人のメンテナンスが負担にならないもの、という前提があります。その中で、おしゃれな感覚を出し、全体がデザイン統合されてハーモニーを生むこと、が大事です。あちこちのホテルを見て歩きますが、フロントはカッコいいけれどあとがどうなのかな、というホテルが結構多いですから。期間は、半年しかなかったですが、うちのスタッフは優秀なんでね、家内の社長はじめ、みんな盛り上がって、じゃあ、やりますか! となりました。
渡邉 その時に全職域のスタッフに、鎌倉シャツさんのDNAフィルターを通したオリジナルユニフォームを着てもらいたいと心の中で決めました。横串で統一感を出したかったですからね! 当時は、ブランディング再構築の作業中で、新しいブランドアクセントカラーに鎌倉シャツさんのコーポレートカラーのネイビーもちゃっかり踏襲させていただきました(笑)。この様な経緯で、4月1日からの制服リニューアルを正式にご相談させていただいたのが、半年前の秋でした。短期間の中で親身になって取り組んでいただき本当に感謝しています。
――ホテルのユニフォーム作成、やりがいがありますね。
貞末 今回、丸ノ内ホテルさんのお客様から新ユニフォームを褒められると思うんです。それがスタッフのモチベーションに寄与するはずです、見られている仕事なんでね。見られてしかも褒められることで、自分たちの仕事を再発見したり、お客様をもてなすということは、いらっしゃいませ、ありがとうございました、と頭をただ下げることではなくて、自分たちが美しいことがお客様をもてなす最高の御馳走だということまでわかってくるんじゃないか、と思います。
渡邉 4月から今までの着慣れていた制服を脱いで、新しいユニフォームを着てビシッときめたときに、多分、わが社の社員は同じホテルで働くことに変わりはありませんが、背筋をすっと伸ばしてハツラツと働いてもらえることと多いに期待しています。
丸ノ内ホテルは客室205室、社員数約100名の非常にコンパクトな単館ホテル。全ての社員がお互いの顔と名前がわかる単位です。このコンパクト感をベースに、当ホテルは「世界のお客様にわが家のおもてなしを!“真心感動ホテル”」を新コンセプトとしてます。鎌倉シャツさんが、それぞれのスタッフに合ったフィット感を重視し、一人一人丁寧に採寸してくれました。ユニフォームの中に自分がいるのではなく、自ら新しいマイユニフォームを着こなして、スタッフそれぞれが自身のアイデンティティと共にお客様に「自分のわが家へようこそ!」という感覚が出たらいいなと思います。大丸有(大手町、丸の内、有楽町)エリアには、鎌倉シャツさんのファンがわんさかといらっしゃるし、周辺のビジネスパーソンに当ホテルをご利用いただく中で、スタッフとの無言の共感が醸成されていったら最高ですね。
貞末 自分に合ったいい服を着る、勉強してちゃんと服を着はじめると、その服がいつの間にか自分を助けてくれるのです。私も長く服の業界にいますが、何度もそのような経験をしました。恐らく、この制服でスタッフの方々も、私は服に助けられているという思いをなさるのではないでしょうか。
渡邉 特に女性スタッフのスカーフとシャツ(またはインナー)はそれぞれ3種類用意しました。スカーフの結び方のバリエーションは、やろうと思えばいくらでもできるのでいろいろな身につけ方が出てくると思うんですよ。スタッフ同士で、それも素敵ね、こっちも素敵ね、といった会話が生まれてくるはずです。ワンデザイン&ワンコスチュームお仕着せ型じゃなくて、お洒落を楽しめる幅をきかせましたが、スーツやシャツは鎌倉シャツご推奨のベーシック且つオーセンティックデザインですからコーディネートの幅を持たせても外す心配はありません。レストランのホールスタッフのユニフォームは白と黒のバリエーションでボウタイ、ネクタイは2種類。いろいろな着こなしが、時間帯別にもできるだろうと思います。当ホテルはリピーターのお客様もいらっしゃるので、自分たちが考えた新しい身につけ方を表現したときにお客様から反応をいただけると思うんですね。
貞末 服の魔力ってあるわけだから、それを理解していただけるでしょう。
渡邉 今回、鎌倉シャツさんと共働で開発した新ユニフォームが、スタッフのマインドに及ぼす影響ははかりしれません。今後、全体でのお洒落感が出てくるとお客様のホテルへのファーストインプレッションも変わってきます。そこに品格のある溢れる笑顔がともなったら理想的な絵になると思います。
貞末 一つ一つはそんなに目立たなくても全体としてすごく調和がとれていることが美しく、ホテルの感性というものをお客さんに信じてもらえるはずです。その心地よさをあそこへ行ったら雰囲気いいわよ、と伝えてくれる。ルームメーキングの方々もこそこそっと来て、出て行くのではなくて、きちんとしたユニフォームで堂々と誇りを持って働いているというのがわかれば、それはお客さんに伝わりますよ。お客さんは、いい体験をしたら必ず伝播していきますからね。これが繁栄の一歩に寄与するのかな、と思います。
渡邉 スタッフへの着こなしの指導など、これからも末永くよろしくお願いします。お世話になりました関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。